コルビュジエから隈研吾まで、南仏マルセイユの近現代建築とデザインを巡る。
久しぶりに南仏マルセイユにある〈ユニテ・ダビタシオン〉にきました。言わずと知れたル・コルビュジエの傑作です。ここは基本的には住宅ですが、一部がホテルになっていて、昔泊まりにきたことがあったのです。前回の訪問から10年近くたって再訪問した〈ユニテ〉は想像以上に鮮やかな出で立ちでした。最近、ファサードの一部を塗り直したところなのだそう。
ここでは15平方メートルから200平方メートルまで、間取りが異なる14種の住戸があり、今回見せてもらったのは98平方メートル、3ベッドルーム+リビング+キッチンというタイプでした。夫婦+子供二人を想定しています。上下2層にわかれたメゾネット形式で、内部の階段で行き来します。ル・コルビュジエは「モデュロール」という、身長183センチメートルの男性を基準にした寸法の体系を提唱し、この〈ユニテ〉にもそれをあてはめていました。天井の高さはそれに基づく2.26メートル、やや低めです。そのため、一部に吹き抜けを設けて開放感を出しています。
キッチンはル・コルビュジエの事務所でインテリアや家具などを担当していたシャルロット・ペリアンのデザイン。ドアハンドルなどはジャン・プルーヴェがデザインしました。コの字型の使いやすいレイアウトです。コンパクトに作られているので、あちこち動き回らなくても作業ができます。リビングに向かってキッチン、リビングのどちらからも開く扉のついたキャビネットがあり、ここを通じてお皿などを受け渡しすることもできます。
この住宅では小さな子供を育てる夫婦のためのデザインが施されています。階段のスリットは小さな子供がはいはいしながら昇るときに手をかけるためのもの。ベッドルームにある小さなデスクはおむつの交換に便利な高さ。おむつのストックや使用済みおむつを入れるところもあります。ル・コルビュジエには子どもはいなかったので、これらはシャルロット・ペリアンのアイデアだったようです。料理や子育てのための工夫が凝らされた、今の暮らしにも応用できる住宅です。
マルセイユは2013年、「欧州文化首都」に指定されました。「欧州文化首都」とは1985年からEU加盟国の中から1都市を選び、1年間さまざまな芸術文化活動を行うことで国や人の相互理解を深めよう、というものです。マルセイユの海辺に現れた、海のさざ波がそのまま固まったようなパターンが印象的な〈MUCEM〉(ヨーロッパ・地中海文明博物館)はそのときに作られたもの。フランスの建築家、ルディ・リチョッティが設計しました。
これをきっかけにマルセイユにはスター・アーキテクトによる建築がいくつか出現しています。港近くの大きな一枚の鏡はノーマン・フォスターの設計。文字通り、巨大な鏡が浮いていて地面やそこを通る人を映し出しています。南仏の強烈な太陽光を和らげ、きらめく波を映して景色に変化をつけます。
港沿いに建つトリコロールの建物はジャン・ヌーヴェルの設計。中からは港がよく見えます。この建物のすぐ近くにある、裾が長く伸びた建物はザハ・ハディドが設計しました。海運会社の本社として使われています。現代美術館〈FRAC〉は隈研吾の設計。細かいエレメントを集合させる、彼得意の方法でデザインされています。「欧州文化首都」以来、急激に生まれ変わっているマルセイユ。より鮮やかになった〈ユニテ・ダビタシオン〉とともに建築ウォッチングが楽しめます。
〈シャトー・ボレリ〉は18世紀の邸宅を改修した工芸・ファッションのミュージアム。ここでは18世紀のものなど、古いものの中に新しいものを混ぜて展示しています。新旧をシャッフルする手法は最近、少しずつあちこちのミュージアムで見かけるようになりました。
〈シャトー・ボレリ〉では新しいものと古いものを別々の展示室に分けているところもあれば、上の写真のように紛れ込んでいることもあります。古いものを新しい視点で見ることができる、ユニークなキュレーションです。
マルセイユは毎回開催地を変えて行われるユニークな芸術祭「マニフェスタ」の13回目の開催地ともなっています。会期は今年、2020年6月7日から11月1日まで。今回はオランダの建築ユニット、MVRDVと、森美術館で3月29日まで開催中の「科学と芸術」展にも参加しているWhy Associatesが新たな都市計画の観点からマルセイユの街をリサーチするというプロジェクトも含まれます。ダイナミックに変貌していく街のこれからが楽しみです。
取材協力:
フランス観光開発機構(http://jp.france.fr)
マルセイユ観光局 www.marseille-tourisme.com